取り組み
われわれをとりまく健康に関する生体情報、生活環境や自然環境などを観測して定量的・定性的に評価することは、健康の深度を予測する問題として、重要な予防医学の課題といえます。
科学的根拠に基づいた医学〜EBM(Evidence−Based Medicine)は、予防医学の面からもその有効性が期待されています。EBMはそのプロセスから大きく分けて4つからなる明確な行動目標として設定されています。
   「問題の定式化」 (目の前の患者が抱えている問題を明確にする)
   「質のいデータの集積」 (その問題についての情報を収集する)
   「情報の批判的検証」 (収集した情報を批判的に吟味する)
   「情報の還元」 (その情報を患者に適用する)
EBMに基づいた予防医学の推進には、健診データ分析と統計的データ解析を融合し、統計数理の考え方から実践データに基づいた実証的な健康評価法の創出が重要です。

ヒトの健康に関する問題は重要であり、高齢化社会にともない、健康管理対策が医学的にも社会的にも重要な時代になりました。健康を害してからの病院における診断・治療の守備型の個人医学もさらに充実させねばならないことは言うまでもありません。これからの健康問題を考えるとき、病気にさせない各種健康診断を中心にした攻撃型の集団予防医学が、積極的に健康の予知・予防を進めるうえで、また保健経済面からも重要です。
ここではEBMと統計について、その概要や現状を簡単にまとめてみました。また技攷舎における統計医療情報システムへの取組みについてご案内をしています。
EBMとは
EBMと標準化値
  
EBMとは
Evidence Based Medicine(EBM)とは、「科学的根拠に基づいた医学」とか「証拠に基づいた医療」と訳されています。すなわち、医療の現場で科学的根拠に基づいた医療を進めようという考え方を指します。
一見あたりまえのようですが、日本の医学界では最近になって話題になってきた言葉です。
医療先進国のアメリカでは、EBMに基づかない医療は保険会社が認めませんし、訴訟大国ではその必要性からもEBMの発想が大変に浸透しています。日本ではこういった発想は従来乏しかったのですが、医療費の高騰や患者中心の医療への変革機運の高まりによって、EBMの発想を取り入れようとする動きが強くなってきました。

EBMでいう「科学的」「証拠に基づく」エビデンスとは何でしょう。「エビデンス」とは「バイアスのない方法で人を対象として行われた臨床試験データを、バイアスのない方法で分析して得られた結果」ということになります。しかもEBMではあくまでも臨床現場ですぐに応用できる信頼性の高い情報でなければなりません。理論上どうなのかということよりも、実際的でそのことが実験でなどで既に証明されたものである必要があります。
この「科学性(エビデンス)」を示してくれるのが統計学の手法であり、評価手段であると言えるでしょう。統計学は臨床疫学と共にEBMを支えるベースといえます。

医療はよく、ArtとScienceの両面があるといわれますが、豊富な臨床経験に基づく専門的技量が前者であるとすれば、科学的な実験や統計学的根拠を基にして医療に検証を加え評価するEBMは後者に属するもので、両者が揃ってはじめて最良の医療が生まれるのです。(EBMの重要な要素:下図)
  
EBMと標準化値
EBMの重要な要素である「科学的な根拠」とはなんでしょうか。医療行為の有用性は、現在確率統計学的にしか評価できないのが現状です。すなわち「科学的な根拠」は統計によって裏付けられている訳です。もともと「医療とは、不確実な科学であり、確率の技術である」と言われ、同じ病気の患者に、同じ薬を使用してもそれが有効な場合もあれば、無効な場合もあります。統計により可能な限りあらゆる現象を数値化することによって、臨床検査値などの量のデータはもちろん定性的なデータも量として把握する工夫をすることによって、客観性を高めることができます。
    
正常値、基準値から標準化値へ
医療データとしてもっとも馴染みのある、臨床検査値など量的検査の多くの正常値はこれまで、医学的に健常と判断されたヒトを集めて。<平均値>±2<標準偏差>の範囲(95%領域)を正常領域として表し、その範囲の中にある値を正常値としてきました。健常人を集めて検査した結果であるにもかかわらず、正常領域からはずれていると異常値とされた。即ち、異常値の意味から「病気である」と解釈され、一方「正常値」に対しても誤解を招きがちでした。
また、性・年齢などの生理的な変化が反映されていない全検査から算出された平均値と標準偏差での正常領域にある検査値を正常値と呼ぶことも、結果判定に混乱が生じていました。この混乱を解消するために、平成9年以降は、検査値に対する「正常値」の表現を「基準値」が採用されるようになりました。

medicalDesignでは、「基準値」を更に展開し、健康健診における性・年齢別を調整した「標準化健診値」を算出し、性や年齢相応の健康維持、健康管理のための正しい情報を把握できるようにしています。標準化法による検査データの可視化は、検査を誰にでも分り易く、身近にすることが目的で、全国に広く普及し、社会に貢献できることを主目的としています。これにより、誰でも健康的な生活をおくれることを願っています。
   
算出方法
@ 正規化データの作成
連続量の検査値が得られるデータが正規分布であれば、検査の種類によってそのデータの平均値(中央の値)や標準偏差(広がり)に違いがあっても、平均値と標準偏差によってデータの正規化を行うと、無名数化された平均値0、標準偏差1の正規分布N(0,1)の正規化データを作成することができる。
A 標準化健診値の作成
ここでは、まず集団健診、人間ドックで実施された検査のうち、結果が連続量として表せる量的検査値の性・年齢別の平均値と標準偏差を求め、それら平均値と標準偏差で正規化データを求め、これら正規化データに、10を乗じた後に、100を加える。この値を標準化健診値と定義します。この標準化健診値は、性・年齢別に調整された平均値100、標準偏差10の正規分布N(100,10二乗)である。この結果は平均値が100(中心)、下限が80、上限が120で表せる健康基準領域(95%領域)をしめすことができる。(下図)
現在の健康診断の結果は、必ずしも有効に使われていません。それは受診者の受け取る判定結果は、正常か異常であるかあるいは少し異常としか伝えられていないため、受診者が的確に自身の健康状況を把握できないことが要因と思われます。また、臨床検査の項目は、他項目に亘りそれぞれ基準値が定められていて医療の専門でないとその数値を把握することは困難と言わざる得ない状況です。

基準値は、年齢変化を考慮していませんので一定値で示されています。臨床検査値は、性・年齢により変わっています。性あるいは年齢により変わらない検査項目は、血小板、総蛋白、アルブミンであり、他の検査項目は、何れも少なからず変化するものから大きな違いがあるものと様々です。本来は、EBM(Evidence Based Medicine)に基づいた基準値を決めなくてはなりません。

健康診断では、この判定を専門家に任せていますが、本来は受診者自身が判定基準を持っていれば、自身の健康に十分注意することができるはずです。しかし、素人である受診者が臨床検査の基準値の知識を持つことは難しいのが現実です。そこで、我々が考案した標準化検査値で表わすことで、誰でも基準の100と比較することで容易となり分り易い診療情報を提供でき、予防医学への貢献ができると考えています。